メタ観光とは、近年生まれた新しい観光概念です。その定義は以下の通りです。

GPSおよびGISにより位置情報を活用し、ある場所が本来有していた歴史的・文化的文脈に加え、複数のメタレベル情報をICTにより付与することで、多層的な観光的価値や魅力を一体的に運用する観光

これまで観光には、さまざまな形態が存在しており、それぞれに独自の呼称が存在しました。文化遺産や自然遺産を巡るヘリテージツーリズム、農村や漁村に滞在するグリーンツーリズム、人類の負の歴史をたどるダークツーリズム、アニメや映画などの舞台やモデルになった場所を訪れるコンテンツツーリズムなど枚挙に暇がありません。

それに対してメタ観光は、これら個別の観光形態よりも一段上位(つまりメタ)にある観光概念です。メタ観光では、それぞれの観光形態を、場所に対して観光的価値を付与する意味のレイヤーとして捉えます。たとえば、ヘリテージツーリズムであれば、その場所には文化遺産という観光価値があることを示す意味のレイヤーになります。そして、そうしたレイヤーを、位置情報を使うことで1つの場所に複数重ねて提示し、観光客に重層的な観光を体験してもらうのがメタ観光なのです。

 

メタ観光の概念図(筆者作成)

 

それでは、なぜメタ観光という概念が必要なのでしょうか。複数のレイヤーをまたがって観光をする観光客の存在は、今日おいて特段の新しさを感じないかもしれません。しかし、そうした観光客を捉える際に、既存の観光業や観光学の議論では、それぞれのレイヤー内で完結した観光のあり方しか見ていないと私たちは考えます。そうした議論ではレイヤーをまたがって行われる今日の観光実態を捉えることは困難です。

また、今日では観光地にある観光的価値の体験ではなく、それをネタにオンライン上のコミュニケーションを行うことに目的を見出す情報社会特有の新しい観光現象が登場しています。こうした現象は、メタ観光では、新たなレイヤーとして捉えられますが、これまでの観光を巡る議論では旧来のヘリテージツーリズムやコンテンツツーリズムなどと区別することが難しいものです。観光地での観光客の振る舞いは以前と変わらず、新たな観光現象はスマホの中にあります。観光地側はそうした観光の実態に気づかないこともあり得るのです。

こうしたことからも現状の観光を巡る議論は時代に追いついてないかもしれません。今必要なのは、観光地や観光形態ではなく、複数レイヤーを越境する観光客の立場に立って「観光」を捉え直すことです。その実現のために一体的にレイヤーを捉えるメタ観光が必要となるのです。

ここでメタ観光をビジネスの視点からも捉えてみましょう。その際には、メタ観光の定義にある「多層的な観光的価値や魅力を一体的に運用する」ことが大事になってきます。この部分は、観光業に新たなアクターが参入できることを示しています。それは、複数枚のレイヤーを束ね、ときにはキュレーションまでを担うプラットフォーマーのような存在です。

実際のプラットフォーマーは、ICT産業が担うだろう。特にコミュニケーションプラットフォームとなるSNSや口コミサイト、場所に重ねられた重層的な意味のレイヤーを可視化するアプリなどが主役だと考えられます。また、それらが機能する前提となるスマートフォンやWi-Fiなどを扱う通信事業者も重要になってきます。さらには、そうしたプラットフォーマーが存在すれば、メタレベル情報を付与することで、新たな観光的価値のレイヤーを開拓することも可能になります。自治体から見れば、地域が本来有していた観光資源のポテシャルを拡張することに繋がるでしょう。

メタ観光関連情報

■ メタ観光紹介記事

■ メタ観光関連動画

■ メタ観光関連論文

  • 菊地映輝(2020), 情報社会における観光は「メタ観光」で捉えよう, GLOCOM OPINION PAPER No.33(20-004), 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター, https://www.glocom.ac.jp/publicity/opinion/6174